逃げていた。

ピアノから。

過去から。

「音、何かして遊ぼうぜ」

「律くん…

律くん、コンクールに向けて、ピアノの練習しよう」

「っ、無理しなくても…」

「無理じゃないよ。

律くん、また私とピアノ弾いてください」

驚いた顔から、微笑みに変わった。

「勿論」

「ありがとう、律くん」

お礼を言うと、律くんは私の頭を撫でた。

「さ、練習しよっか」

「うん!」

椅子に座ると、鍵盤に手を掛けた。

でも、指が震えて押せなかった。

「…音、音は出来損ないじゃないよ」

「…っ」

「音は、天才だ」

笑顔で言ってくれた。

私は頷くと、前を向いた。

そして、律くんと合わせて鍵盤を押して音を奏でたーー