律くんは無事退院した。

暫くママと過ごした家に帰ってなかった為、律くんの心遣いで家に換気や掃除をしに行くところだった。

「やっと帰れる〜」

「本当にごめんね…」

「バーカ」

優しい笑顔で、そう言いながら私の頭を撫でた。

「もう、謝るのは無しな?」

「…うんっ」

律くんは、全く怒らない。

私の所為で刺されたのに。

「あっ…」

律くんがいきなり立ち止まったので、顔を上げると、家の前に川上健二が立っていた。

「音…」

「なんの用ですか。

もうあなたと会いたくないんですけど」

私が言うと、川上健二は土下座をした。

「私の娘がすまなかった!」

「「…っ!」」

私の娘、か…

「謝って済むとお思いで?」

「思ってない!

だが、謝らないと気が済まない…」

「別に、今回の事についてはなんも思ってませんよ。
だから、立ってください」

律くんの言葉に頷いて、立ち上がった。

「今回の事については許しますが、過去の事については許しません」

「…っ」

「音を傷付けた。心の奥底まで。

大好きなピアノを辞めさせた。
俺は、許しません」

律くん…

「分かっている…
私がどんなに酷い事をしたのか…

また娘を傷付けたという事も…

琴音にも謝りたくて…」

そうだった…

報せてなかったんだ…

「ママは亡くなったよ、随分前に」

「ーー…!?」

「会いたくなかった、ママを傷付けたから、報せたくなかったんだ。

てゆーか、謝って許してもらおうだなんて、虫が良すぎるよ。
もう帰って。

一生会いたくない」

「…そうか…

悪かった…」

俯いて、歩きだそうとしているあの人に向かって、私は言った。

「元気でね、パパ」

「…!」