暫く、音は弾かなかった。

けど、深呼吸した後、弾き始めた。

あいつの、得意曲を。

凄かった。

息をするのも忘れてしまいそうなくらい凄い演奏だった。

場面毎に弾き方を変えて、悲しさを、切なさを。

喜びを楽しさを表していた。

やっぱり、音は凄いよ。

悔しいけど、あいつの血が流れてる。

出来損ないでも、恥晒しでもない。

天才だよ。

正真正銘の。

最高の、ピアニストだよ。