おでこ全開で風を切る。

ああ、本当に気持ちがいい。

…心も浮き立っていた。

思い出しては、相手が後ろにいるというのに赤面する。

「良いですね、ロードバイク。」

浮かれたままに話しかける。

「ああ、季節的にね。もう少ししたら厳しいけどね。」

確かに真夏は…厳しいかな。

「今日、誘ってくれて…ありがとうございます。」

素直に、お礼を言った。

「ロードバイクは初めて?」

「はい、こんな風に二人で漕ぐのも。」

私に合わせて、ゆっくり漕いでくれているのだろう。景色も、楽しめるように。

「川辺のキスは?」

…はい?

「は、初めてですけど…」

「じゃあ、海辺のキスは?」

何なんだ?

「し、したこと、ありませんけど。」

「じゃあ、キスは?」

「そ、それはあるに決まって!…ます…。」

「僕、以外?」

…ほぇ?

何なんだ?

「…まぁ、そりゃ。いい年ですし、私…それくらいの経験は…」

「それくらい?」

「もう!それくらいというか、あるでしょ!それ以上も!彼氏がいたことくらい…あるんだから!」

…何なんだ。

何でそんな事…

…ん?

重い…ちょっと…重…

「田中さん!?足止まって…」

振り向くと、何かを考えいるのか、難しい顔。

「あ、ああ…ごめん。」

再びペダルは軽くなった。