葉擦れの音だけの空間で

唇を離した彼が優しく微笑む。

「行こうか。」

そう言って立ち上がる田中さんに、私も立ち上がった。

「前に乗って。」

さっきと同じように、彼がロードバイクを支えて言った。

「何で、私が前?」

何か意味があるのかと聞いてみた。

「前の方が景色が綺麗だから。」

…今日は、背筋は諦めるとしよう。

だけど、ちょっと振り向いてみた。

少しの期待を…込めて。

それに…少し驚いた田中さんが被ったばかりのキャップのつばをずらす。

そのまま…期待に応えてくれたのだろうか…

もう一度、唇が合わせられる。

彼が再びつばを前に戻すのに合わせて

私も前に向き直った。

「いいもんだね。」

田中さんの小さな声が背後から聞こえた。

前で良かった。

顔を見られずに済む。

「せーの。」

その言葉を合図に進みだす。

せーの、の可愛さにもときめく。

正直、景色どころではない。

だけど…いいもんだなって…

思った。

脈拍は…たぶん、相当漕いだくらいまで上がってるだろうけど

0からは何も…言われなかった。