そこに設置されたベンチから、色とりどりのコスモスが揺れるのを見ていた。



……このタイミングじゃないだろうか。



そう思うとバクバクと心臓が大きく音を立て



「違うからね」

0から余計な心配が入らぬように前以て言った。



「…何が?」

「いえ、こちらの話で…」



「……あの…」

「あ!こんなのんびりなのじゃなくてもっと本気でロードバイク漕ぎたかった?」

「…いえ…あの…」

「冷えてきた?そろそろ行く?」

「…いえ…あ…」

「今日は0が妙に静かだね。どこかぶつけたかな」



【ごめん、雅実】

「いいの、0ちゃん」



「……何がだ?」

【普段喋らん癖に…こんな時は喋る】



「…どうしたの、雅実」



改まって、聞かれると余計駄目っていうか。

いや、私が駄目だっていうか…



「あ、今日も…勿論…好きだよ」

田中さんに言われてしまい…

「へ?あ、ありがとう。わ、私も」



「うん」

そう言って、私に軽いキスをして

彼は立ち上がった。



腕を左右に伸ばすと



「さ、行こうか。結構漕いでここまで来たから、帰りはしんどいだろうけど…大丈夫?」



「うん、大丈夫」

そこは大丈夫。全然大丈夫だ。



つい“私も”って言ったけど

ただの軽いキスの確認みたいに解釈され



0からも何も言われない。



つまり、今のはノーカウント。





残すは…家だ。



家で言うしかない。



大丈夫、お泊まりなんだから十分に時間はある。



お泊まりなんだから。



お!?



お泊まり!

そうだ、お泊まりー。



【脈拍ヤバいでー】

「今日は、大丈夫だから、スルーして0ちゃん」

【オッケー、俺も今日は傍観しまーす】



もう少し、冷たい風の方が良かったな、と思うくらいに、顔が熱い。