「はい」
そう言って田中さんがそれは見事にスルーして手を差し出して来た。
「え?」
「手、転けないように繋いでおこう。……あ、違う。繋ぎたいから。いい?」
彼はちゃんと“伝える努力”をしてくれている。
だから、私も……
「私、このチョコレートコスモスが一番好きです」
「うん、すごい……甘い」
【花言葉は“恋の終わり・恋の思い出・移り変わらぬ気持ち”だそうです】
0の言葉に
少し沈黙する。
「……俺達は…どれだろうね」
終わって思い出になるのか…
ずっと……
「…田中さん、あの……」
「…あっちのも見に行こう。黄色は元気な色だね。オレンジっていうのかな…」
「あ、ほんと…ハロウィンみたい」
ちょうど今っぽい色だ。
…田中さんの手に少し力が込められた気がした。
黄色のコスモスの前で…
「楽しかった?」
そう聞かれ…
「今、ですか?」
「…あの…彼と…」
そう言うと、パッと手を離し
背を向けた。
茎の細いコスモスは少しの風で揺れていた。
「…興味があるから聞いたのに…聞きたくないな」
田中さんがボソッとそう言った。
「特記事項があるなら……聞こうかな」
「…素敵な方でした。だけど、もう会うことはありません。会う機会を与えて下さってありがとうございました」
「……うん」
爽やかな秋の風が、気持ち良く頬を掠めて行った。