「ここの道路は並走可能だから、横に来たら?」



田中さんが振り返ってそう言った。



「…はい」



サヨウナラ背筋さん。

少し力を込めて漕いで横へと並んだ。



あ、上腕二頭筋さんコンニチハ。

とても美しい。



そして少し視線を上げると、目が合って彼が微笑んだ。



「髪、上げてるの綺麗だね」

今日は前回の学習から高い位置で一つにまとめていた。



「あ、ありがとう」



「ふっ、雅実はさ…自転車漕いでたら敬語が抜けるね」



「あ!は、はい、そう…だね。手と足と(心臓)を必死で使ってるから…頭が働かなくて…」



「うん、その方が、いいね。好きだな」



今の“好きだな”は相当“好きだな”

何て思ってる場合じゃなくて



「私も好きだな」

思わず出た言葉は…練習してたものだったけれど…



「じゃあ、自転車降りてもそうして」



「…うん」



そうだよね、今のタイミングは、そうだよね。



よし、次だ、次。



【緩衝材の隙間からコンニチハ】



「わぁ!びっくりした」



【そうやろ?大丈夫?脈拍が乱れておいでですよ、雅実さん】



「…その乱れじゃない」



【は、はーん】



「…もう少しで着くんだけど、休もうか?」



「大丈夫!大丈夫だからっ」



“もう少し”の意味は直ぐに分かった。



前方に広がる……



綺麗な風景。