ベンチに座ってお金を渡そうとしたら「俺が勝手に買ったんだから」と言って受け取ってくれなかった。
「ありがとう、ほんとにごめんね」
いいのかな、ほんとに。
伊藤くんはそんなあたしの心なんて露知らず、美味しそうにチョコバナナを頬張っている。
あんまり言いすぎるのもよくないと斎藤くんの時に学んだので、素直に伊藤くんの言葉に甘えることに。
「いただき、ます」
「はは、どーぞ」
二人で並んでチョコバナナを食べる。チョコの甘さとバナナが絶妙にマッチして、疲れた身体を癒やしてくれた。
「うーん、美味しい」
「だなっ! 腹減ったーって、思ってたんだ。って、もう昼じゃん」
「それはお腹も空くはずだね」
他愛ない会話をしながら食べるチョコバナナは、お腹が空いていたこともあってとても美味しくて。
思わず笑顔になったあたし。伊藤くんも同じように笑っている。
──バシャ
「うわっ、冷た」
隣を見ると、ビックリしたように伊藤くんが自分の頭を触っていた。
「ど、どうしたの、伊藤くん」
「なんか上から水が」
「え? 雨?」
二人して空を見上げる。
梅雨入りしたから空気がジメッとしていて湿度が高い。
見上げた空はどんより曇っていたけど、雨が降っている様子はなかった。
「な、なんだろ、誰かのイタズラかな?」
このベンチはちょうど全教室の真下にあるから、教室から誰かがイタズラしようとしたのかもしれない。
「うお、いてっ」
「え? 今度はどうしたの?」
「よくわかんないけど、なんかが頭に当たった」
「え、あ」
伊藤くんの頭に当たって跳ね返ったらしいスーパーボールが、コロコロと転がっていくのが見えた。
「なに? なんで、スーパーボールが?」
「さぁ? わかんないけど、子どものイタズラか?」
あたしはとっさに立ち上がって、スーパーボールを拾って握りしめる。
いったい誰が、こんなこと。



