「待てっつってんだろーが!」
切れ気味な声がして、ドタバタと走ってくる足音が聞こえる。後ろから追いかけて来ているのがわかった。
「ど、どうしよう、なんか怒ってるよ」
「ほんと、超しつこいよね」
かわいい顔が台無しってほどに、嫌そうな表情を見せる女の子。セーラー服のスカーフが風になびいてひらひらと揺れる。
「ねぇ、走るのは得意?」
「え? あんまり得意じゃないかも……」
「じゃあ、しっかりあたしの手を握っててね」
その子はそう言ってニッコリ笑った。女のあたしでもドキッとしてしまうような、凛とした女の子らしい笑顔。あたしはその目を見つめ返しながら、力強く頷く。
「いい? 行くよ」
「うん」
「せーの!」
あたしたちはどちらからともなく早足になり、手を繋いだまま走り出した。細くて華奢な手に引っ張られながら、風を切って駅の中を進む。
「おいっ、待てっ!」
道行く人は何事かとあたしたちを振り返り、訝しげな目を向けてくる。
駅の階段を駆け下りて、繁華街の中を走った。人の間をすり抜けて、明るいネオン街をひたすら走る。
はぁはぁと息が切れても、引っ張られているおかげで足が止まることはない。
怖いけど、一人じゃないし。女の子のおかげでずいぶん心強い。
まぁ、あたしは完全に巻き込まれただけなんだけど……。
「どう? まいた?」
「待てっつってんだろぉ!」
「もう! いい加減諦めろっての!」



