その日の夜、あたしは学校での出来事を思い出していた。
あの甘い時間は、いったいなんだったんだろう……。
あのあと斎藤くんは水道まであたしを連れて行き、髪の毛を洗ってくれた。
髪の毛についたペンキを洗い流してくれている間、恥ずかしくてたまらなくて、真っ赤になってうつむいていた。
斎藤くんはそんなあたしの耳元で『よかった、この顔を見たのがあいつじゃなくて』って、クスッと笑いながらそう囁いたんだ。
ねぇ、知ってる?
斎藤くんじゃなきゃ、こんな顔にならないよ。
そもそもあの場にいたのが宮間くんだったら、断固拒否して自分で髪を洗ったよ。
斎藤くんだから……だよ?
そこんとこ、ちゃんとわかっているのかな。
ねぇ、斎藤くん。
そんなこと言われちゃったらさ、期待はどんどん膨らんで、斎藤くんもあたしと同じ気持ちでいてくれてるのかなって思わずにはいられなくなる。
期待してもいいの……?
「はぁ……」
見ているだけでよかったのに、今は……そのゴツゴツとした手に、柔らかそうな唇に、ふわふわの髪の毛に触れたいって思うんだ。
斎藤くん……どうしようもないくらい、好き。
結局斎藤くんのジャージを着て帰って来ちゃったし、ジャージにもペンキがついちゃった。
ベストと斎藤くんのジャージは、放課後すぐにクリーニングに出した。
斎藤くんにあらためお礼を言ったほうがいいかな。
明日は土曜日だから、会えないしなぁ。
家に帰って来てから、メッセージアプリの画面を何度も開いて文字を打とうとしてみた。
でもそこから指が進まない。あれこれ考えてたら時間が経過してしまい、もう夜の八時前。
メッセージひとつで、なんでこんなに悩むんだろう。



