もっと俺を、好きになれ。


心の中からモヤモヤを取っぱらいたくて、走って学校へと向かう。

学校に着く頃には汗だくで、カッターシャツは風通しが悪く、背中から汗が滴り落ちる。

あっちー……。

でも、ちょっとスッキリした。

今はなにも考えたくない。

ズボンからカッターシャツの裾を出して、下からパタパタ仰いで風を送っていると──。

「さ、斎藤くん……! おはよう」

背後からどもるような声がした。

呼吸を整えて振り返ると、そこにはもの珍しげに俺を見る叶ちゃんの姿。

なんでこんなに朝早くから俺がいるんだっていう顔。

はは、叶ちゃんってわかりやすっ。

いつもは下ろし髪スタイルだけど、今日は後ろでひとつに結んでポニーテールにしている。

そのせいで耳についた小さなハート型のピアスがはっきりと見えた。

首元からはネックレスが覗いている。

オシャレだよな、意外と。美人だし、おまけに魅力がある。

こんな子にまっすぐ気持ちをぶつけられたら、そりゃ恥ずかしくもなるわ。

──ドキッ

いやいや、なんだよ、ドキッって。

意味わかんねーし。

「おはよう」

俺はそう言って笑顔を作った。

笑っていれば、煩わしいことから逃げられる。

だから俺は、いつでも笑う。

逃げるために──。

「今日は朝練がないの?」

「うん、たまたまね」

「そっか」

「昨日は、その……変なこと言ってごめん」

「え?」

「いや、余計なこと喋りすぎたかなって」

本来なら、叶ちゃんにあんなことを言うべきじゃなかった。

あまりにも叶ちゃんが俺のことを『すごい』って言うから、そのイメージを壊したらどうなるのかなって。ただそれだけだった。

だって俺は、すごくもなんともない。

中身のないつまらない奴だ。

「うれしかったよ、あたしは」

「…………」

「昨日も言ったけど、斎藤くんのことをもっと知りたいと思ってるから」

なんだよ、これ。

胸の奥から温かいものがあふれる。

どう表現すればいいかわからない感覚に、俺はただ平静を装うのに必死だった。