いったい、どうしちゃったんだろう。
なんだか斎藤くんらしくない。
「いや、やっぱなんでもない。だからごめん、気にしないで」
取り繕った斎藤くんの笑顔にすぐに気がついた。なにかあるってバレバレだけど、それ以上は踏み込んでほしくなさそうだ。
「あたし……あの時すごく助けられたんだ。斎藤くん、ヒーローみたいでカッコよかった」
「はは、そんなにいいもんじゃないよ。もしかして、その時に俺に惚れたとか言う?」
なにかを探るような斎藤くんの瞳に、ドキドキが止まらなくなる。
「う、うん、その、まさか、です」
「マジか。そんな理由で好きになるって、叶ちゃんも意外と単純なんだな」
「た、単純……?」
フッと噴き出し、なぜか遠くを見つめる斎藤くん。なんだかまずいことでも言っちゃったかな。
「みんな単純だよ。べつに特別なことをしたわけじゃないのに、俺のことを好きだって言う」
「人を好きになる時って、どうしようもないよね。気づいたら好きになってるんだもん。自分じゃどうにもならない。やめようと思って、やめられるものでもないし」
「まぁ、そうなんだけどさ。俺の場合は、みんなフィルター越しに俺を見てるだけなんだよ。そんなにできた人間じゃないのに、みんな俺を超人みたいに言う」
斎藤くんはそう言って肩をすくめた。
どこか傷ついたような横顔。
「その時の一瞬の俺を見ただけで勝手なイメージを作り上げて、結局は上辺しか見てねーの」
上辺だけ……。
あたしのことも、上辺だけしか見ていない奴だと感じたのかな。
だから、そんなことを言うの?
「それでイメージとちがうとか言われても、じゃあどうすりゃいいのって感じ。そんなにすごいとこばっかでできた人間じゃねーもん、俺」
「あ、あたしは……斎藤くんとはほとんど話したこともないし、実はまだどんな人なのかって、よくわからないけど」
今まで勝手なイメージを抱いていた部分もたしかにある。
斎藤くんのすごいところだけしか見ていなかったのも否定しない。
「これから知っていきたいと思ってる、斎藤くんの色んな顔を」