向かい合ってドーナツを食べる。
それはどこにでもよくある光景なのかもしれないけど、相手が斎藤くんだからなのか、ものすごく特別なことのように思える。
「すごく美味しそうに食べるね」
「え、ああ、今日の授業中にさ、なんだかふとドーナツが食べたくなったんだ。カラオケはまぁ、べつにいつでも行けるし、今日はドーナツの気分だったんだよな。念願叶って、今超幸せ」
無邪気な笑顔を見せる斎藤くん。
なんだ、やっぱりあたしを誘ったのはただの気まぐれだったんだ。今日がカラオケの気分だったら、あたしを誘うことなくカラオケに行っていた。そういうことなんだろう。
斎藤くんは自由奔放でマイペースだから、気の向くままにってやつ。
ちょっとでも期待していた気持ちがあったからなのか、胸の中でなにかがプシューと音を立ててしぼんでいく。
だけど今こうしているだけでも奇跡みたいなことだから、感謝しなきゃ。
ポジティブにとらえて、前向きに生きる。それがあたしだ。
「それに俺、みんなでワイワイするのも好きだけど、静かにゆったりすごすほうが好きなんだよな」
二個目のドーナツを頬張りながら、斎藤くんはフッと小さく笑う。
「そうなの?」
「叶ちゃんだから言うけど、みんなでいると色々面倒じゃん。合わない奴もいるし」



