カラオケに行かなくてよかったのかな。
あたしを選んでくれたのはどうしてだろう。
ただの、気まぐれ……?
「斎藤くん、これドーナツのお金」
「え、いいよ、そんなの」
財布から五百円玉を取り出しておずおずと差し出すと、斎藤くんはあたしの行動が信じられないとでも言いたげに大きく目を見開いた。
「え、でも……」
「この前、後輩の女たちから守ってくれたお礼」
「いや、あの、でも」
「いいからいいから、女の子はそんなこと気にしないで」
気にしますよ、だって、奢られ慣れてないし。自分の分は自分で払わないと気が済まないというか、申し訳ない。
斎藤くんの中で、あたしはちゃんと『女の子』なんだ……。それはうれしいけど。
「ドーナツなんてそんなに高いものでもないんだしさ」
斎藤くんはあたしが差し出したお金を受け取る気はさらさらないらしい。手を合わせて早速ドーナツにパクついている。
何度も言わせるのも逆に悪いし、ここは斎藤くんの言葉に甘えるべきなのかな。
「あ、ありがとう。じゃあ、遠慮なくいただくね」
「どーぞ。つーか、うまっ。腹減ってるから、何個でもいける」
ドーナツにかじりつく斎藤くんは子どもみたいだった。教室でもよく甘いものを食べてるので、スイーツ系は嫌いじゃないらしい。



