屋上から教室に戻る途中、あたしは三年生の階に着くと自然と斎藤くんと距離を取った。
斎藤くんが後ろからついてきて、あたしは前を歩いている。
「あ、コジローくんだー!」
「どこ行ってたのー?」
学年でも明るい派手な女の子たちに、あっという間に取り囲まれる斎藤くん。
「一緒にお昼食べようと思って、探してたんだよー?」
「あ、そうなんだ?」
「どこにいたの?」
「えー、それはヒミツー!」
「怪しいなぁ。どうせ女の子といたんでしょ?」
「さぁ?」
「絶対そうでしょ?」
「はは、どうかなー?」
女の子からの質問をうまく交わしている声を、あたしは背中越しに聞いていた。
決して本当のことは言わずに、うまく駆け引きをして笑ってごまかす。
本当のことを言わないところが、また女心をくすぐるようで「もう!」と取り巻きの女の子たちも不満げだ。
煽るのがうまくて、本音を隠すのが上手。そんなところがきっと、女の子を夢中にさせる。
斎藤くんはそれをわかっているのかいないのか……。
「明日はあたしとお昼食べよ?」
「うーん、気が向いたらな」
──チクッ
そう、今日斎藤くんが屋上に来たのは、ただの気まぐれ。
特別な理由なんてない。だから期待しちゃダメ。
そんなことは最初からわかっていたはずなのに、優しくされるとどうしても期待しちゃうあたしがいる。
ダメダメ、あたしは自分にそう言い聞かせて頭を強く左右に振った。