「さ、斎藤くんはすごいよ。人気者だし、優しいし、モテるし、うまく言えないけど……すごいよ!」

力説すると、うんうんと伊藤くんも真顔で頷いた。

「はは、俺、そんなにすごい奴じゃないよ。実際には、なんもできない弱い奴だし。現にクラスの奴らも俺のことバカにするし」

「そんなことないよ。みんな、心の中では斎藤くんのことが好きだと思う」

あたしを含めて、ね。

「いっやー、そんなこと言われたら普通に照れる」

見上げた斎藤くんの横顔は、いつも以上にゆるんでいた。思わず見つめていると、チラリと横目にあたしを見てさらにゆるむ斎藤くんの横顔。

昨日までは見ているだけだった笑顔が、あたしに向けられている。そのことが信じられなくて、やっぱりこれは夢なんじゃないかな。

夢オチとか嫌だよ。

教室に着くと斎藤くんはクラスメイトから次々と声をかけられる。あたしはその隙にそっと自分の席へ。

すると思いがけず、斎藤くんが隣の席に自分のカバンを置いて席に着いた。いつもならすぐ友達のところへ行ってしまうのに、今日はちがっている。

机に頬杖をつきながら、じっとあたしを見つめている。

「叶ちゃんって呼んでいい?」

「え?」

「俺のことはコジローでいいから」

「い、いや」

「え、嫌?」

「ううん、そうじゃなくて……待って」