そう言う咲彩の横顔はほのかに赤い。
末永くんを大切に想う気持ちがひしひしと伝わってくる。
「いいな、咲彩は。だって、付き合ってなきゃ喧嘩もできないんだよ……?」
「えー? そうかな?」
「そうだよ……」
あたしは青野 叶夢(あおの かなめ)、乙女座のO型。
腰までストンと伸びたまっすぐなブロンドヘアと、眉の上で切りそろえたパッツンの前髪。
目鼻立ちがしっかりしているせいか、咲彩にはフランス人形みたいにおめめがパッチリだね!なんて言われてる。
中身はよく言えばクールビューティー。悪く言えば、無愛想とか無表情で怖いとか。ほとんど話したこともない人からそんな目で見られてしまい、とっつきにくいと言われる。
でも、そんなことはべつにいいんだ。
本当のあたしを知ってくれてる人が他にいるから。
「ちーっす、はよー!」
「わ、虎ちゃんだ!」
咲彩は肩をビクッと震わせた。
「あ、咲彩! おまえ、なんで先に行くんだよ。ずっと待ってたんだからな」
「だって、虎ちゃん怒ってるんだもん」
「咲彩が途中で寝るからだろ? 俺、ずっと返事待ってたのに。朝も咲彩待ってたせいで、遅刻しそうに。って、俺、待ってばっかじゃーん!」
自分の言葉に面白おかしく突っ込みを入れる末永くんは、どうやら本気で怒っているわけではなさそうだ。
「はいはい、ごめんごめん、許してください」
「誠意が感じられないな」
あたしはそんな二人のやり取りを聞きつつ、靴箱から上履きを取り出す。
その瞬間、背後に人の気配がした。
「おはよ」
横からスッと腕が伸びてきて、聞き覚えのある声に固まってしまった。次第にドキンドキンと高鳴っていく鼓動。
どうやらこの挨拶はあたしに対してのものらしい。
派手な茶髪の髪の隙間から見えるピアスに、ゆるく締まったネクタイ。
「お、おは、おはよう!」
緊張して声が裏返ってしまった。