伊藤はどうやら俺たちのやり取りを見ていたらしい。なにやら気まずそうな表情を浮かべている。

不思議なことに叶ちゃんの後ろ姿は、母親の姿と重なることはなかった。

伊藤と二人きりになることは、そりゃちょっとは嫉妬するけど。

「コ、コジローくん、さっきのは冗談だよね?」

「本気だったら、嫌だよ〜!」

教室に向かって歩き出そうとすると、数人の女子が俺の周りを囲んだ。どの子も青い顔をしている。

「さっきの?」

「青野さんのことだよ!」

「みんなのコジローくんがぁぁぁ! 誰かのものになるなんて耐えられないっ!」

「カムバーック、コジローくん!」

「はは、ごめん、それは無理。さっきも言ったけど、俺のほうがベタ惚れだから」

「ノーォォォォ!」

「な、なんで〜……!?」

はっきりそう伝えると、壁に手をついてヨタヨタとあからさまにショックを受けている。

俺はそんな女たちの横を素通りして教室へと歩いた。