でも、姉ちゃんが言ったことはまちがってない。

今日の屋上での叶ちゃんとの出来事を思い出すと、自分でもどうしようもないほどに顔がゆるんでしまう。

逃げないで自分の気持ちに素直になってよかった。

「そういえば、あんた、ノーアに就職希望なんだっけ? 大学は経営学部でしょ? 受験ファイト〜!」

「誰がノーアなんか」

「あれ? ちがうの? 小さい頃から、お父さんと同じ会社で働くんだって言ってたじゃん」

「まだ……ノーアで働くって決めたわけじゃない」

「ま、今のあんたの成績じゃ無理だよ。あの会社は毎年すごく倍率が高くて、日本中の有名大学から就職希望者が殺到するんだから」

「わかってるよ、俺だっていろいろ考えてんの。そんなことより、オヤジのことだけど……」

「え?」

姉ちゃんは俺がオヤジの話題を振ったことに、信じられないと言いたそうに大きく目を見開いた。

「今日遅いの?」

「さぁ、もうすぐしたら帰ってくるんじゃない?」

「ふぅん、そっか……」

「…………」

「なんだよ?」

変な目でジロジロ見やがって。

「小次郎からお父さんの話って、珍しいなって」

「ま、俺も大人にならなきゃな」

いろいろと。

前を向いて生きる。もう逃げないって決めた。