「しないよ、真面目に生きるっつったじゃん」
「それって、あたしの、ため?」
こんなストレートなことを聞くのはどうしても勇気がいるけれど、たしかめたい。
「それはもちろんだけど、自分のためっていうのが一番強いかな。情けない自分でい続けたくなかったというか」
穏やかな斎藤くんの声。どこか真剣な雰囲気が漂い、なぜだか斎藤くんの身体が小さく震えている。
「俺が十歳の時、母親が男と駆け落ちしたんだ……」
「え……」
予想もしていなかった重めの話に背筋がピンと伸びる思いがした。
「それ以来、女のことが信じられなくなった。真央のことも最初は、ああ、こいつなら信じられるかもって思ってたのに、初恋相手との間で揺れるあいつを見てたら、家族を捨てて出て行った母親の姿とかぶってさ……。そしたら耐えられなくなって、あっさり自分から手放した」
斎藤くんは笑っているけど、どこかツラそうな笑顔だった。
初めて聞かされる斎藤くんの本音に、ただただ胸が痛い。
「自分から手放すことで、傷つくことから逃げたんだ」
震える斎藤くんの背中を優しく撫でる。
大丈夫、大丈夫だよ。
そんな気持ちをこめて。



