斎藤くんを前にして、ここまで緊張するのは初めてだ。

告白の時はほとんど勢いだったもんね……。

どうしよう。

やっぱりいざとなったら逃げたくなる。

もういいかなって、思ってしまう。

斎藤くんの気持ちを知るのが……怖いよ。

「なんだよ、そんな深刻そうな顔して。大丈夫だよ、俺、ちゃんとわかってるから」

「え?」

わかってる?

なにが?

わけがわからなくてポカンとするあたしに、斎藤くんは口角を上げて笑った。

「別れ話、だろ? だいたいいつも、同じようなタイミングで切り出されるからさ」

別れ、話?

え?

「振られ慣れてるし、わかってるから」

「なに、言って……」

あたし、そんなことひとことも言ってない。

それなのに……。

決めつけたような言いかたに、拳をグッと握りしめる。

「でも──」

うつむかせた視線の先に、斎藤くんの上履きのつま先が目に入った。影がだんだんと近づいてきて、あたしのものと重なる。

「ごめん」

「え?」

腕をつかまれたかと思うと、力まかせに引き寄せられて──。

あたしは引力に従うように斎藤くんのほうへと引き寄せられる。

そしてあっという間にその腕に包まれた。身体全体が斎藤くんの中にいる。密着する腕も、胸も、体温も、全部、全部がすごく近い。