え?

あ、あたしですか?

「斎藤くん……」

一度目では無反応で、二度目は肩をツンと叩いた。

「えっ? うわっ!」

すると斎藤くんは驚いたように目を見開いてこっちを振り返った。

頬杖をついていた手からズルッと滑り落ち、明らかに動揺している。

うわって……オバケでも見たかのように。

うう、ひどい。

「なに?」

目が合い、じとっと見られた。

「さーいーとーうー、なに? じゃないだろ。目を開けたまま寝る奴があるか。この問題をやってみろ」

「え?」

あたりを見回し、クスクス笑われていることに気づいた斎藤くんは、ようやく自分の状況を理解したらしい。

「無理無理、俺、わかんねーもん」

「わかんねーもんじゃない。逃げるな、男だろ」

「そうだけど」

「ほら早く前に出ろ」

「マジかよー!」

ブツブツ言いながらも、斎藤くんは立ち上がって黒板の前へ行き、なんだかんだ言って先生にヒントをもらって問題を解いている。

いつものことだけど、斎藤くんは最初からやろうとしないだけで、やればできる人なのだ。

席へと戻ってきた斎藤くんと思わず目が合ったので、あたしはぎこちなく微笑んだ。

でも──。

斎藤くんはまたあたしからパッと目をそらして、自分の席に着いたのだった。