「な、なにも、ないよ? どうして、斎藤くんが出てくるの?」
「見てたらバレバレだよ、青野さんの気持ち」
「え……」
う、ウソ。
「それに、いつも斎藤くんのこと熱っぽい目で見てるしさ」
「うっ……」
あたしって、そこまでわかりやすかったの?
バレバレだなんて、恥ずかしすぎるよ。
うー、あー!
「俺、ずっと青野さんのこと見てたから」
え?
「かわいいなと思って、見てたから」
えと、それは──。
それって、つまり──。
「だから、すぐにわかったんだ。青野さんの気持ちが」
ウソ……。
なんで?
どうして、あたしなの?
伊藤くんの顔は暑さで真っ赤なのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。
「青野さんのこと、俺、真剣だから」
「…………」
「あんまりカッコいいこと言えないけど、俺ならそんなふうに泣かせたりしないし、傷つけたりもしない」
ど、どうしよう……。
伊藤くんの真剣な気持ちが伝わってくる。
ドキドキ、しちゃう……。
「今すぐどうにかなるつもりはもちろんないけど、でも、俺の気持ちだけ覚えといて」
そう言われても、あたしはすぐに返事ができない。
伊藤くんがまさか、あたしを……。
そんなこと、考えたこともなかった。
「気が変わったら、すぐに教えて。俺、いつまでも待ってるから……」
生温い風が吹いて、辺りに静寂が訪れる。しばらくすると、気まずいのか伊藤くんは「じゃあ、先に戻ってる」と言い残して足早に行ってしまった。
あたしはひとことも言葉を発することができなかった。
ただあるのは、信じられない気持ちと、戸惑いと、少し、ほんの少しだけの気持ちの揺れ。
いやいや、あたしが好きなのは斎藤くんなんだからっ。
でも、ツラい時って揺れてしまう。伊藤くんの気持ちがまっすぐすぎて、うれしいって……。
そんなふうに思ってしまったんだ。



