「わ、最悪」

次の日のお昼休み、一階の自販機に飲み物を買いにきたあたしは、百円しか持ってきてなかったことに撃沈。

五十円玉を二枚、そのうちの一枚が百円玉だと思いこんでしまっていた初歩的なミスだ。

「う、教室戻るの面倒だな……」

うーん、どうしよう。

手のひらの五十円玉を凝視してたって、百円玉にかわるわけがないんだけど。

「なにしてんの、青野さん」

「え? わ、伊藤くんっ」

真剣に手のひらを見つめるあたしに、訝しげな視線を向ける伊藤くん。

わ、変な奴だって思われたかも。

恥ずかしい……。

「あ、もしかして、五十円足りない感じ?」

「よ、よくわかったね!」

「そりゃわかるよ、そんだけ手のひら凝視してたら。それに五十円玉が二枚しかないし。ここ、ペットボトルの自販機だし、飲み物全部百五十円だしなー」

クスクス笑う伊藤くんに、頬が熱くなっていくのを感じる。

「はい」

そう言って手のひらに乗せられた五十円玉。

伊藤くんは太陽のようにまぶしい笑顔を浮かべている。

「さっき飲み物買って、ちょうどお釣りが五十円だったから」

「かりちゃっていいの?」

パァッと表情がゆるむあたしを見て、伊藤くんはさらに目を細めた。