複雑なあたしの心境をわかってくれたのか、咲彩はそれ以上はなにも言わなかった。
「パーッと歌おう、パーッと!」
明るく場を盛り上げてくれようとする咲彩の優しさに、また涙がにじんだ。
その後、明るい曲を二人でたくさん歌って、思いっきり笑った。
「叶ちゃん、あたし、叶ちゃんのことが大好きだからねっ!」
「うん、あたしもだよ……!」
「あたしが男だったら、まちがいなく叶ちゃんを選んでる!」
「あはは、ありがとう」
咲彩、ありがとう、大好き。強い味方の存在に、なんだかすごく元気が出た。
咲彩と話せて、聞いてもらえてよかった。
「叶ちゃん、あのね……」
歌い終えてお会計をしていると、咲彩が言いにくそうに口を開いた。
「どうしたの?」
「実はこれから虎ちゃんと約束してて。店の前まで迎えにきてくれてるみたいなの。だから、帰りは別々でもいい?」
「ふふ、いいよいいよ。あたしは一人で帰れるから、心配しないで」
「ごめんね……!」
申し訳なさそうに眉を下げる咲彩に、あたしは満面の笑みを返す。
「こちらこそ、今日はありがとう。急に泣いちゃってごめんね」
「そうだよ、ビックリした。だって、まさか叶ちゃんが泣くなんてさ!」
「だよね、あたしもビックリした」
ホントはずっと憧れてた。咲彩と末永くんのように、お互いが大好きだって想い合えているような関係に。
はたから見ていて大好きな気持ちが伝わってくるような、そんな甘い恋愛に。
一方通行じゃダメ。お互いが想い合ってなきゃ意味がない。
そばにいるだけじゃダメだってことに、今さら気づいたよ。
でも……一歩踏み出す勇気が、今のあたしにはない。
「あ、おーい、咲彩!」
「虎ちゃん!」
お店の外で末永くんが待ち構えるようにして立っていた。幸せそうに笑いながら、咲彩の元へと駆け寄ってくる。
いつも仲良しで、幸せそうな二人。
いいな。
あたしもいつか、こんなふうに想われてみたいよ。
「末永くん、咲彩かりちゃってごめんね。おかげですごく楽しかったよ!」
「よ、青野。咲彩でよかったら、いつでもどうぞ」
「ありがと。じゃあね、お二人さん、バイバイ!」
咲彩と末永くんに手を振り、駅のほうへと歩き出す。その足取りはすごく軽くて、さっきまで沈んでたのがウソみたいだった。



