「か、叶ちゃん?」

そんな咲彩の声も耳に入らなくて、あたしは子どものようにその場に膝を抱えてうずくまる。

涙が止まらないのは、この曲のせいだ。

こんなほろ苦いしっくり系のバラードなんて、やめてほしい。

「大丈夫? 叶ちゃん……っ! どうしたの?」

心配してオロオロする咲彩の声がすぐそばで聞こえる。

でも、涙が止まらなくて顔を上げることができない。

「ごべん、ね……っ」

こんなところでみっともなく泣くなんて、あたしのキャラじゃない。

「あ、謝らなくていいよ。と、とにかく、泣きたい時は泣いていいからね」

咲彩の優しい言葉に涙腺が崩壊して、余計に涙が止まらなくなった。

斎藤くんを好きでい続けることが、ここまでツラいなんて……。

泣きやむまでずっと、咲彩はあたしの背中をさすってくれた。

その手はすごく温かくて、優しくて。気が済むまで泣くと、ちょっとだけスッキリした。

「咲彩、あたし……斎藤くんの、ホントの彼女に、なりたい……っ」

「ほ、ホントの彼女?」

「一方通行じゃ……嫌、だよ……」

苦しくて、再び涙があふれる。

「え? ど、どういうこと?」

「斎藤くんの、心が……ほしいっ」

あたしのこと、好きになってほしい。

「わかるようにちゃんと話して?」

そう言われて、あたしはこれまでに斎藤くんとの間に起こったことを、咲彩に全部打ち明けた。

黙って聞いていてくれていた咲彩が、あたしの手をギュッと握ってくれる。

「な、なにそれ、叶ちゃんから告白して、付き合ってる? しかも、斎藤くんの気持ちがわからない? 中学の時の元カノに一途だった? あの斎藤くんが? 信じらんないっ! しかも、元カノがまだ斎藤くんを好きって……昨日二人が会ってるところを見たって。なに、それ」

こうやって改めて聞くと、ツラさをまざまざと実感させられる。

「叶ちゃん……ツラかったんだね」

そう言うと、咲彩はあたしの身体をキツく抱きしめた。

「なにがなんでも好きな人のそばにいたいっていう叶ちゃんの気持ち、あたしにもわかるよ。こうなったらもう、思い切って斎藤くんの気持ちを聞きなよ! 元カノはしょせん元カノだし、気にすることないって! 昨日会ってたのも、なにかのっぴきならない理由があるのかもしれないじゃん!」

「さ、咲彩……」

うるうるした目で咲彩の顔を見上げる。

咲彩は握り拳を作ると、自分の胸を小さく叩いた。

「それでもしダメだった時は、あたしが胸をかしてあげる!」

励ましてくれる頼もしい親友。

でも、怖いよ……。