うちのお父さんはそのトップに立つ会長という座について、今も忙しそうに日本中を飛び回っている。
「まーな、こんな偶然があるなんてなー」
「斎藤くんのお父さんって、どんな人なの?」
「え? べつに、普通のおっさんだよ」
普通のおっさん、そう言った斎藤くんの顔に影が落ちたような気がした。
「さぁ、ほら、遅くなる前に帰ったほうがいいよ」
「え、あ」
パッと離れた手に名残惜しさを感じてしまう。
もう少し、触れていたかったな。
だけど、そんなことが言えるはずもなく。
「じゃあな、おやすみ」
「あ、うん。送ってくれてありがとう」
笑って手を振る斎藤くんに、あたしも小さく手を振り返した。
斎藤くんとは、最初の頃よりもずいぶん距離が縮まったと思う。でも、まだ核心には触れられない。
甘かったり、突き放したり──。
いったい、どれがホントの姿なの?
未だに熱が残る右手を、ギュッと握りしめる。
優しくされたり、思わせぶりな態度を取られると、期待しちゃうよ……。