斎藤くんの手の温もりがあまりにも優しくて、穏やかで、強くて、たくましくて、ずっと包まれていたいって、離したくないって思った。

「え、叶ちゃんちってここ!?」

目の前にそびえ立つ高級マンションを見上げて、斎藤くんが驚きの声を上げた。

「うん、そうだよ」

「へぇ、すげー……」

「全然だよ。すごいのはあたしの親で、あたしは全然普通の人間」

「いや、うん、まぁ、そうかもしんないけどさ。どうりで仕草とか振る舞いがお上品なわけだ! 納得!」

「え、そうかな?」

「庶民臭がしないと思ってたら、そういうことだったんだな」

「そんなことないよ。普通にコンビニやスーパーにだって行くし、電車通学だよ、あたし」

今までお嬢様だってことを、学校でおおっぴらにしたことはない。小中学生の時、さんざんそれで好奇の目で見られたし、お金目当てで近づいてくる人も少なからずいた。

それに、すごいのはあたしじゃないのに、ちやほやされるのが嫌だった。

「わかってるってー、お嬢様だからって見る目が変わったりしないから」

「…………」

「叶ちゃんは叶ちゃんだろ?」

どうして斎藤くんはほしい時にほしい言葉をくれるんだろう。

その言葉にどれだけ安心させられているか、わかってる?