「そ、それは……」
まさか、斎藤くんだなんて言えない。
みんなから期待に満ちた目を向けられてしまっていて、どうすればいいんだろう。
「俺だよなー、叶ちゃん」
いつの間にか離れた場所にいた斎藤くんが隣にやってきていて、ニヤリとしながらあたしの顔を覗きこんだ。
「!?」
その言葉と行動に、ビックリして目を見開く。
ふんわりした斎藤くんの髪が頬に当たって、昨日の夜の光景が頭の中に蘇った。
その柔らかな斎藤くんの唇に……触れたんだよね。
恥ずかしくてたまらなくなり、あたしはとっさに斎藤くんから距離を取る。
「なななな、なに言ってんのっ!」
ああ、こんなに動揺してたらバレバレだよね。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
「だって、ホントのことだろ」
斎藤くんは冗談なのか本気なのかわからない顔で笑っている。
ううっ、きっとからかわれているんだ。
斎藤くんはどんな時でも余裕だね。
「ち、ちがうよ、ホントにちがうからっ」
「えー、なーんだ。つまんないの」
ルナちんがスネたようにふてくされる。
付き合っていることを内緒にしようと言ったのは斎藤くんなのに、これじゃバレちゃうよ。
「なんだよ、そんなに必死に否定されると傷つくんだけど」
わけがわからない。
斎藤くんは、どうしてそんなことを言うの。
うつむいていると、ルナちんからの視線を感じた。
「明日中学の卒アルを見せ合いっこしない?」
「え、卒アル?」
中学の?
どうしていきなり?
「中学生の叶ちんって、どんな顔してるのか興味あるー!」
「わかるー、あたしも見たーい!」
「だから明日持ってきてね。見せあいっこしよ!」
「う、うん、わかった」
中学生の斎藤くんが見れるのは、ちょっとうれしいかも。
「げー、卒アルとかかんべんしてよ」
隣で斎藤くんがげんなりした顔をする。
それでもルナちんは持ってくると言い張って、弾むような足取りで教室に戻っていった。



