「青野さんは美人だから、そんな冗談言ったら男は誰だって勘違いしちゃうよ?」

「……じゃない」

「ん? ごめん。よく聞こえなかった」

「冗談なんかじゃない……っ!」

どうしてそんなふうに言うの。伝わらないのが悔しくて思わず大きな声を出してしまった。

それにビックリしたのか、斎藤くんは肩をビクッと震わせる。

「あ、あたし、本気で斎藤くんのことが好きだからっ! 彼女と別れたって聞いて、うれしいって思っちゃったの!」

こうなったらもう、やけだ。こんなのあたしのキャラじゃないけど、斎藤くんに冗談だと流されてしまうよりはマシだもん。

「え……冗談、じゃなくて?」

まだ冗談だと思われてるんだ……?

そうだよね、ほとんど話したこともないし……迷惑だったかな。

でも──。

この気持ちを冗談にされるのは嫌だ。

「ほんとの、ほんとに、斎藤くんのことが……好きなんだよ!」

ありえないくらい鼓動がドキドキして、全身が火照った。自分の顔が耳まで熱くなっているのがわかる。

ああ、なにを必死に好きって……迷惑に決まってるのに……。

涙がジワッと浮かんで、斎藤くんの顔が見れなくなった。情けなくて、恥ずかしくて、今すぐここから逃げてしまいたい。

「じゃ、じゃあ、あたし、帰る! バイバイ!」

机の横にかかっていたカバンをつかむと、斎藤くんの顔も見ずに教室を飛び出した。