「シャンプーのいい匂いがするんだけど」
「うううう、うん……お風呂、上がり」
「はは、どもりすぎ」
恥ずかしくて、顔を上げることができない。
斎藤くんの息が耳にかかる。身体中の神経が斎藤くんに集中して、斎藤くんのことでいっぱいになった。
「叶ちゃん、顔上げて?」
「む、無理……っ」
恥ずかしくて死にそう。
「無理って言われると、どうにかしてでも上げさせたくなる」
「……っ」
「叶ちゃんといると、そういう欲とか男心がくすぐられるんだよな、なぜか」
もうやめて、耳元でそんなに甘いことを囁かないで。斎藤くんはいつだって、あたしをドキドキさせるのがうまい。
「あ、あたしを、キュン死させる気……?」
「え、急死……?」
「ち、ちがう……」
もう!
なにもわかってない、この人!
わざと?
「叶ちゃんが顔上げてくんないと、強引に向かせちゃうよ?」
うっ。
なんだかうまいこと乗せられているな。
もうね、惚れた者負け。はい、あたしの負けです。
斎藤くんの言葉には抗えない。
ゆっくり上を見ると、斎藤くんの勝ち誇ったかのような顔があった。
「はい、俺の勝ちー」
「……っ」
無邪気な斎藤くんの笑顔が目の前にあった。
密着した身体から、このドキドキが伝わるんじゃないかと不安になる。
こうしているだけで、胸の奥から気持ちがあふれ出て──。
「好き」
そう言わずにはいられない。
「はは」
斎藤くんは甘い笑顔を貼りつけて笑っているだけ。
ズルいよ……。



