「あれ? もしかして、スッピン?」
同じように歩道橋の上から景色を眺める斎藤くんは、横目にチラリとあたしを見て言った。
「う、あんまり見ないで。斎藤くんに会うってわかってたら、もっとちゃんとしてきたのに」
「かわいいよ、スッピンも。いつもきっちりしてるふうの叶ちゃんがスウェットなのにも、ギャップ萌えする」
「な、なに言ってんのっ! またからかってるんでしょ?」
ひー、恥ずかしすぎるよ。
だってかわいいなんて……からかってるだけに決まってるんだから。
顔を見られたくなくて両手で覆った。あたしの心臓は斎藤くんにだけ敏感に反応して、振り回されてばっかりだ。
「斎藤くんって、なに考えてるか全然わからない……」
「え、なんだよ、いきなり」
「だ、だって、いつも笑ってるんだもん。それに、からかってばかりだし」
「それは叶ちゃんの反応がかわいいからだろ。俺にだって悩みくらいあるんだけどなー」
「え、そうなの? あたしでよければ、力になるよ?」
「明日から学校嫌だなってことと、早く梅雨が明けないかなーってのと、明日の数学が嫌だなって」
「え? それって、悩みとは言わないよね?」
「はは、そう? そんなささいなことしかないよ、悩みなんて」
やっぱりそうだよね。
肝心なことはなにも話してくれない。



