「迷惑だったらやめとくけど」
あたしがビックリした声を出したからなのか、斎藤くんはそんなふうに引き下がった。
「ううん、迷惑じゃないよ。会いたい」
「わかった、じゃあそっちに行く。どこにいんの?」
場所を伝えると斎藤くんは「十分で行く!」と言い残して電話を切った。
あ、あたしったら、こんな日に限ってまたスウェットだしっ!
しかもお風呂上がりだからスッピンだし、なんなら髪も少し濡れたままだ。
斎藤くんに会うってわかってたら、もっとかわいい恰好をしてメイクもしたのに。
十分じゃそれは無理だし、いつくるかわからないからここを動くわけにもいかない。
ああ、あたしのバカ……。
こんなみっともない姿をさらすことになるなんて……。
「叶ちゃん……!」
斎藤くんは宣言通り十分でやってきた。走ってきたのか、かなり息が乱れて肩で呼吸をしている。
腰ではいた濃い目の色のジーンズに、シンプルな白いTシャツ姿。私服もかなりオシャレでカッコいい。
「お待たせ……はぁはぁ」
「大丈夫?」
「うん、余裕!」
なんでもないようにニッコリ笑う斎藤くん。
ダメだ、やっぱり好きだよ……。
こうして会ってしまうと、バカみたいに悩んで考えていたことがどうでもよくなる。
こうして笑ってくれるんだから、いいじゃん。
なにも不安になることなんてない。
斎藤くんを信じよう。
自分から壊す勇気も、離れる勇気もない。だからあたしは、斎藤くんを信じる。そう決めた。