斎藤くんは納得するまで諦めないだろうし、このまま黙っていてもなにも解決しないことはわかってる。
でも、どう言えば……。
うつむかせた視線の先に、書きかけの日誌の一部が目に入る。
『今日のうれしい出来事』は空欄のままだ。
思い返せばうれしい出来事なんて、他にもたくさんあったのに。
『今日のお弁当の中身が好きなおかずばかりだった』
『英語の発音が上手だと褒められた』
『数学の小テストで満点を取ることができた』
そんなささいなことでよかったんだ。
それなのに、あたしの……バカ。
握りしめた拳が震える。
「俺って、青野さんに嫌われてる?」
「え……?」
反射的に顔を上げると、眉を下げて未だに首を傾げる斎藤くんの顔があった。どう考えたらそんな答えに行き着くのか、さっぱり意味がわからない。
「あ、やっと顔上げた」
ニッコリ笑った顔はいつもの斎藤くんだ。破壊力のある笑顔に、あたしの心臓は大きく高鳴る。
あたしは……斎藤くんの笑顔が好き。
誰にでも分け隔てなく接するところも、ちょっといい加減なところも、お調子者な一面も、全部。
全部好き。



