央ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で、斎藤くんのことを熱っぽい目で見つめていた。
真央ちゃんの忘れられない元彼、それは斎藤くんのことだったんだ……。
あの時他人事みたいに聞いてたけど、真央ちゃんの好きな人が、まさか斎藤くんだったなんて……。
世界が狭すぎるにもほどがある。
こんなことって、ホントにあるんだ……。
二年以上前に別れた二人。
斎藤くんは真央ちゃんの幸せを願って身を引いた──。
『今度こそ幸せになれ、応援してる』と笑って、真央ちゃんの背中を押した。
そんなドラマみたいなツラい恋を経験してたなんて……。
斎藤くんにとって、きっと真央ちゃんは特別だった。
斎藤くんが、今の真央ちゃんの気持ちを知ってしまったら……。
あたしたちの関係はどうなっちゃうんだろう……。
──ズキンズキン
激しい痛みを伴って、胸の奥が締めつけられる感覚がする。
あたしは二人が立ち去ったあとも、その場から動けずにいた。
本当は斎藤くんを追いかけたい。さっきのあたしに対する言葉の意味も、真央ちゃんのことも、聞きたいことはたくさんある。
でも、聞いてしまったら──。
斎藤くんはあたしのところに戻ってはこないという、なんの根拠もない不確かな確信がある。
真央ちゃんに対して、まだなにかしらの想いが残っているんだって、さっきの二人の会話で強く強く感じてしまった。
だって──。
あんなにツラそうな笑顔や、まるでなにかから逃げるように、余裕のない斎藤くんの顔を見たのは初めてだったから。