斎藤くんは大きく目を見開いてポカンとしている。整ったその顔は、今までに見たことがないくらいビックリしているようだった。
「……っ」
きゃあああ、ど、ど、ど、ど、どうしよう!
もしかして、聞かれちゃった……?
ヤバいよ、非常にヤバい。
よりによって張本人に聞かれたかもしれないなんて、頭が真っ白になってパニック状態。
サーッと血の気が引いていく感覚がした。
「今の、どういうこと?」
「え……?」
「青野さん……今、俺のこと言ってたよな?」
「……っ」
や、やっぱり聞かれてたんだ……。
『うれしい出来事……斎藤くんが彼女と別れました』
ああ、もう、あたしの……バカ。
思い出すだけで顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。こんなことを聞かれちゃうなんて、どこかに穴があったら入りたいよ。
「俺が彼女と別れたことがうれしいの?」
首を傾げて意味深に眉を寄せる斎藤くん。
これじゃあ、あたし、すごく最低な奴みたいじゃん……。
斎藤くんにはそんなふうに思われたくない。
「青野さん?」
「え、あ」
一歩ずつこちらに歩いてくる斎藤くんは、あたしが座る目の前の椅子に腰を下ろす。
椅子にまたがり、あたしの方を向いて、その視線は返事を急かしているようだ。
どうしよう……。
とっさのことで言い訳なんて思い浮かばない。
なんて言えば……納得してもらえるんだろう。



