「よ、コジロー」
俺に気づいた虎がそばへとやってくる。
俺は少し浮ついた気持ちを落ち着けようと、大きく息を吸った。
だけど──。
「どうしたんだよ、真っ赤だぞ?」
「は、はぁ? なわけねーだろ」
そんなわけない。あるはずがない。
否定しても虎は俺の顔をマジマジと見て、最後にはニヤッと笑った。
「いーや、真っ赤だ。なんだよ、恋か?」
「なんでそうなるんだよ。浮かれてるおまえと一緒にすんなっつーの」
「いい加減おまえもさ、真面目な恋愛してみれば?」
からかうように笑う虎にイラッとする。
「なんでそういう話になるんだよ」
「俺はおまえを心配してるんだよ。だっておまえ、時々遠くを見つめながらすっげーツラそうな顔してるし」
なんだよ、それ。そんな顔してねーし。
返事の代わりにムスッとしてみせる。いつもは冗談っぽく返せるのに、なぜかムキになってそっぽを向く。
その理由は考えたくもない。
「してるって。どっか遠くに、大事な人を置いてきたかのような切なげな顔を」
「ぷっ、なにそのたとえ。おまえ、そんなキャラじゃなかったじゃん」
「ははは、目覚めたんだよ」
「めんどくせー」
他愛ないやり取り、これがいつもの俺たちだ。
煩わしいことはなにも考えたくない、そう、なにも。面倒なことは見ないフリをして、楽しく過ごせたらそれでいい。
なにも考えずに、ただ笑っているだけで過ぎていく毎日も悪くない。
そう、何事も中途半端なくらいがちょうどいいんだ。
バスケ以外のことに本気になったり、真面目に取り組むなんてありえない。
一生懸命だった俺は、遠い過去に置いてきたんだ──。