ムッとしているその横顔はほんのり赤くて、子どもみたいで。
「はぁ……俺、こんなこと言ったの初めてだよ」
熱っぽい眼差しでまっすぐに見つめられると、心臓がありえないほどドキドキしてくる。
ねぇ……それって、どういう意味?
斎藤くんはあたしの前で足を止めて、耳元に唇を寄せてきた。
ふわっとした柔らかい斎藤くんの髪の毛が頬に触れて、ああ、ダメだ。
クラクラする。
「花岡さんとは」
──ドキン
あ、熱い。ものすごく。
耳にかかる吐息に、めまいがしそう。
心臓が激しく揺さぶられて、大きく高鳴っている。
「なにもないから」
ズルいよ、斎藤くんは……。
フッと笑う斎藤くんに尋常じゃないほどドキドキした。
しばらく沈黙が続いた。
あたしの心臓の音が、どうか斎藤くんには聞こえていませんように。
必死にそう願って、赤くなった顔を隠すのに必死。
──ピンポンパンポン
『生徒の呼び出しをします。三年三組、斎藤くん、斎藤くん。至急体育館まできて下さい。繰り返します──』
熱を帯びた静かな教室に、放送部員の単調な声が響いた。
ハッと我にかえり、あたしは左胸を手でギュッと押さえる。
「え、あ、俺だ。やべ、部活の催し物でバスケするんだ。わり、叶ちゃん、ちょっと行ってくる」
「え、あ……うん」
斎藤くんは慌ただしく空き教室を出て、あっという間に行ってしまった。
「ち、力抜けた……」
あたしは壁に背中を預けるようにして、ズルズルとその場にしゃがみこむ。
顔が、全身が、ものすごく熱い。
いったいさっきのは、なんだったんだろう。