「食べられる気分じゃないから。斎藤くんは、どうして笑っていられるの……?」
ひとことでいいから、安心させてくれる言葉がほしい。
『花岡さんとは、なにもないよ』
『気にしすぎ』
『ただの友達だから』
たったひとことでいい。
お願いだから、なにか言って。
じゃないとあたしは、不安だよ。
斎藤くんの気持ちがわからない。
付き合ってるのに片想いって、すごく苦しいんだよ。
「気にしないでって言ったのは……叶ちゃんだろ」
どことなく呆れたような声に、胸がズキズキ痛んだ。
そう言ったけど、あからさまになにもなかったようにされたら、あたしだって傷つくよ。
たったひとことでもなにかあれば、ちがうのに。
ねぇ──。
斎藤くんはあたしのこと……どう思ってる?
喉元まで出かかった言葉をグッと飲みこむ。
すると。
「じゃあ、俺も言わせてもらうけど」
はぁとため息交じりの声が吐き出された。
じゃあって……俺もって……なに?
今、あたしが話してたよね?
なにを言われるんだろうと不安が押し寄せる。
このニュアンスからすると、いいことじゃないよね、きっと。
斎藤くんの気持ちがわからないから……怖い。
「二人で仲良くチョコバナナなんか食ってんじゃねーよ。しかも、なに奢られてるんだよ。そこはちゃんと断れよ、バーカ。うれしそうにニコニコしてんじゃねー」
「え……?」
「教室から丸見えなんだよ、二人で楽しそうにしやがって」
え?
え?
あからさまに不機嫌そうな斎藤くんに、あたしはただただ驚くことしかできない。
どういう、こと?
もしかして……見られてた?
二人でチョコバナナって……奢られてるって。
あたしと伊藤くんのことを言ってるの?
ま、まさか……ね。
「あー、カッコわり……こんなこと、言うつもりなかったのに」
「…………」
「叶ちゃんといると、マジで調子狂う」
「……っ」
あ。
「こ、これ……」
あたしは硬く握っていた手のひらをゆるめて、斎藤くんの前に差し出した。
「あ、それ……っ」
手のひらに乗っている物を見た斎藤くんの顔には、しまったと書いてある。
「もしかして……斎藤くんが?」
しばしの間黙りこんだあと、観念したように口を開く斎藤くん。
「だったら……悪いかよ」
え、あ、やっぱり。
このスーパーボール、斎藤くんが上から落とした物なんだ……。
「み、水も上から降ってきた……もしかして、それも斎藤くんが?」
「う……っ」
う、ウソ……そうなんだ。
あれも、斎藤くんが……。
声を詰まらせたということは、そうなんだよね?
どうして……?
いろいろとわからないことだらけで戸惑う。キャパを超える出来事が起こると、頭が真っ白になるっていうけど、こういうこと……?
なにがなんだかわけがわからない。
こんなの、絶対にあたしの勘違いに決まってる。
斎藤くんがあたしに嫉妬なんて……するはずがないよね?