もっと俺を、好きになれ。


この階は使われていないから、ひとけがなくてとても静かだ。

空き教室の少し埃っぽい床の上に座ってスマホを取り出す。

頭にあるのは、斎藤くんと花岡さんの姿。

何気なくSNSを流し見していると、途中でメッセージの通知がきた。

「さ、斎藤くんだ……」

なんで?

どうして?

『今どこ?』

既読がついたからなのか、そのすぐあとに電話がかかってきた。

「あ、叶ちゃん? 今どこ? 探してんだけど」

「え、あ、四階の空き教室……」

「空き教室ぅ? なんでそんなところに? ま、いいわ、すぐ行く」

「え」

──ツーツーツーツー

電話はすぐに切れて、代わりに誰かがバタバタと走ってくる足音とビニール袋のこすれる音が聞こえた。

あたしは立ち上がり、教室から顔を出して斎藤くんの姿を探す。

「さ、斎藤くん」

「あ、いた」

あたしを見るとすぐさま斎藤くんは駆け足でやってきた。

風で茶色い髪があちこちに跳ねている。

暑いのか甚平の袖を腕まくりしているせいで、二の腕があらわに。普段そんなところまで見慣れていないから、なんだか妙にドキドキしちゃう。

「なんでこんなところに?」

「そ、それは……」

花岡さんと仲良くしている斎藤くんを見ていたくなかったなんて言えない。