「そろそろ戻るか。交代の時間だし」

「そうだね」

スーパーボールのことが気になったけど、伊藤くんはさほど気に留めていないようだった。

ま、いっか。きっと子どものイタズラだよね。

斎藤くんもそろそろ交代のはず。これから誰かと校内を回るのかな。

声、かけてみようか。

そんなことを考えながら教室へと戻った。さっきよりもお客さんは少ないものの、それなりの状態。

あたしは斎藤くんの背中を見つめた。

あれ、斎藤くん、スーパーボールすくいの担当だったんだ?

水を張ったビニールプールの中に浮くスーパーボールを、必死になってすくおうとしている小学生らしき男の子が二人。

「兄ちゃん、このポイすぐ破れんだけど!」

「そうだよー、もっと丈夫なのくれよ」

「おまえら、ヘタくそだな。いいか? 見てろよ、スーパーボールすくいってのは、こうやるんだよ」

小学生相手にムキになって張り合う斎藤くんの横顔は、子どもみたい。

「あーくそ、破れた!」

「ほらー、だから言っただろー? そのポイが悪いんだよ」

「だー、うっせー! もう一回!」

小学生よりも悔しそうに必死な斎藤くん。

「ほら見ろ、どーだ! 取れたぞ!」

「わー、すっげー!」

「そうだろー?」

うれしそうな横顔。

斎藤くんのそんな姿にキュンとしてるのは、どうやらあたしだけじゃないみたい。

「ヤバい、カッコいいよね」

「小学生相手に本気とか、かわいい」

「甚平姿もヤバいよね」

ううっ、斎藤くんがモテている。

あたしは遠くからそれを見ていることしかできない。