「悪いけど、智大が帰ってくるまでの間お邪魔させてもらうね」

と圭介が言ったので、藍里は二人分のコーヒーを淹れた。
お茶請けとしてケーキを買ってきてくれていた親切心に、藍里はほんの少し心が温かくなった気がした。

「いただきます」

「い……いただきます……」

キッチンテーブルに向かい合い、美味しそうにケーキを食べる圭介を少し不思議な気持ちで見つめた。
圭介が座っている椅子、いつもはそこに智大が座っている。

心が折れたその日から同じ食卓につくことは藍里自身が避けていた。
その前から向かい合って目を合わすことも、世間話のような会話もなかったけれど、この家のその場所に智大以外の男性が座っているのを見ていると何とも言えない違和感だった。

「このケーキすごく美味しいって評判でね、こんな状況だけど初めて遊びに来れた記念にと思って買ってきたんだよね。
あいちゃん、チーズケーキ好きだったでしょ?」

「あ……はい……。好き、です……」

そう言いながら目の前のチーズケーキを見つめる。

結婚する前なら喜んで食べていただろうそのケーキは、今はとてもじゃないが食べられそうにない。
けれど折角の好意をどうしようかと緊張のせいで指先が冷たくなるのを感じながら考えていると、いつの間にか食べ終わった圭介が皿の上にフォークを置いた。