すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~

「男性恐怖症の永瀬がお見合いしたってだけでも驚いたのに、その日の内に婚約。三ヶ月で式を挙げるスピード婚でしょ?
何かあったんじゃないかって皆で心配してるのよ」

藍里の男性恐怖症は職場でも有名で、男性客の相手は必ず藍里以外の人が対応するほどの徹底ぶりだった。
そんな藍里がまさかの見合いであっという間に結婚したのだから、そんな風に訝しがられても仕方なかった。

「……本当に何も……相手は高校まで一緒だった一応幼馴染み、なんですけど……気付いたら結婚してました」

そう、気付いたら結婚していた。
藍里は正直、お見合いの時の記憶も結婚式の記憶もあまりない。

見合いの日、目の前に座った智大が高校卒業の日に見た時より遥かに逞しく、男らしくなっていたのを見て尋常じゃないほど恐怖を感じ、背中を伝う冷や汗が止まらなかった。
智大の母親に何か話しかけられても機械的に頷くことしかできなくて、お見合いが終わった頃には、婚約出来て良かったわね。と嬉しそうに微笑む母親の言葉に雷に打たれるほどの衝撃を受けた。

藍里が断らなくても、絶対に智大が断ると思っていた。

初めて会った時から仲良くしてもらったことがないどころか、逆に冷たく接せられた覚えしかない。
原因は分からないが、それほど嫌っているのであろう相手と結婚なんてしないだろうと思いこんでいたのが仇となり、気付いたら婚約、そして結婚してしまっていた。

見合いの席でちゃんと話を聞いていたとしても、恐怖の対象でしかない智大を前に断れなかったかもしれないが、確実にあの日に藍里の未来は変わってしまったのは確かだった。