「……何してる?」

「あ……」

藍里の気配で目が覚めたのか、いつの間にか智大は絨毯の上に座る藍里をじっと見ていた。
それに気付くと藍里は体を固くし、今すぐ逃げたい衝動に駆られたが、指先に巻かれた包帯の違和感を感じて何とかその場に踏み止まった。

「あの……さっきは、色々とごめんなさい……。それと、手当て……ありがとう」

俯かないように、しっかりと目を見てそう言うと智大は僅かに驚いた様子だった。
今まで恐怖に負けて男性の、特に智大の顔をしっかり見て話すことは殆んど出来なかったので、藍里の中でかなり大きく前進した気持ちだった。

ーー早く何か言ってほしい……。

見つめ合った状態が数分続き、沈黙にも視線にも耐えられず背中に冷たい汗が流れ始めた頃、智大は起き上がってソファに座ると口を開いた。

「それだけか?」

「え……」

「用はそれだけかと聞いてる」

感情の読めない眼差しに、藍里の心臓は嫌な音をたてる。
ドクン、ドクン……。と体の中から響いてきて藍里は少しずつ血の気が引いていくのが分かった。

何も話せない藍里に痺れを切らしたのか智大は視線を反らすと、他に用がないならさっさと寝ろ。と言い放った。