「薬を飲む回数を減らしたい?」

小さな診療室の丸椅子に座り、目の前の昔馴染みの女医に思い切って希望を伝えると、目を丸くして驚かれた。

「一年前は薬を増やしたいと言っていたのに……どういう心境の変化かしら?」

怪しむでもなく、からかうでもなく、どこか嬉しそうに目を細めて微笑まれ、藍里は今朝思ったことを出来るだけ詳しく話そうとした。

「一年前は……朝まで起きることなく眠りたかったんです。
でも、今は……そのせいで寝坊とか多くなっちゃって……申し訳ないなって……」

誰相手にとは言わなくても長年の付き合いの女医は心得ているように相槌を打った。
そして優しい笑みをそのままに口を開いた。

「毎晩睡眠薬を飲む原因となってしまった旦那さんに対して、寝坊が多くなってしまった事に罪悪感を覚えて何とかしないとって思ったのね?
とってもいい傾向じゃない」

明け透けな言い方に苦笑しながらも、間違いではないので素直に頷いた。

ここは昔から……藍里が男性恐怖症を発症して暫くしてからずっと通っているメンタルクリニックで、主にカウンセリングと睡眠薬を処方してもらっている。

結婚前まではどうしても眠れない時だけ飲んでいたのだけれど、結婚してからは毎日欠かさずにベッドサイドのテーブルの引き出しにある鍵付きの小箱に入れて、喘息の薬と一緒に智大に隠れて飲んでいた。

けれど、最近では眠りすぎて朝が起きられず、結婚した時に決めた役割分担も満足に出来ていないことから薬を飲む回数を減らす決意をしたのだった。