〈智大side〉

「勿論、何度か会って話したから……今は弱いだけの人ではないと思ってますし、理解はしたつもりです。
それでも、あれだけ苦しんでたから……弱音を吐いて、任務に行かずに傍にいてくれと引き止めると思ったんです……」

最後に見たのは、藍里が陣痛の痛みに耐えて一人踞る姿。
出来ることなら一緒にいてほしいと言っていたのに、智大の手を振り払い、お願いだから任務に行ってほしいと叫んだ声がまだ耳の奥に残っているようだった。

「……妻は強い」

それはさっきの出来事だけではなく、今までだってそうだった。
喘息の持病があるが故に体は強くないかもしれないが、藍里の心は誰よりも強かった。

長年、智大の態度や言動に苦しみ、悲しみながらも最終的には受け入れてくれた。
そして、今は智大と同じ想いを返してくれるまでになった。

そんな藍里が弱いなんてことは決してないと、智大は汐見を見据えて口を開いた。

「そもそも、妻の男性恐怖症は俺が原因だ」

それは室山以外には話したこともない、自身が素直になれなかった故の汚点であり、真実。
幼少期の頃から続いた藍里への言動、そして相手の意思など関係ない見合い結婚。
ただ相手を縛りつけていただけの新婚生活。

ぽつりぽつりと話す智大の話に、入江と汐見は信じられないとでも言いたげに目を見開く。
聞き終えた後に二人して室山に視線を向けるが、室山は無言で頷き、今の話を肯定していた。