「私、は……大丈夫……。この子と一緒だから、頑張れる……。だから、智君……」

その後は言葉に出来ず、痛みに耐えるために顔を俯かせて歯を食い縛った。

「……永瀬さんっ!藍里さんは必ず無事に病院に送り届けます!ですから行ってくださいっ!」

吉嶺が藍里を支えるために体に触れる。
その真剣な眼差しと藍里と吉嶺の説得が効いたのか、智大の目から戸惑いと苦悩が消えた。

「……お時間とらせました。汐見と共に、すぐに向かいます」

言い終わるや否やスマホをしまうと智大は汐見に、行くぞ!と声をかけ立ち上がった。
一瞬、力強く藍里の頭を撫でたので藍里が目を細めると、智大は強気な笑みを浮かべていた。

「藍里なら大丈夫だ。俺もなるべく早く解決して駆けつける」

「ん……待ってる……」

それだけの短い会話。
その後、二人は振り返ることなく全速力で駆けていく。
その後ろ姿を逞しく思いながら見ていたが、姿が見えなくなった瞬間に襲いかかった痛みに思わず声が出た。

「っ……ぁ……!」

「藍里さん、もう少しで病院に向かえます!もう少しだけ耐えてくださいっ!」

吉嶺がそう言うと、何処からかサイレンの音が聞こえてきた。
もしや救急車を呼んだのかと思っていたら、視界に入ったのはパトカーと、運転席から慌ただしく出てくる松浦だった。

「吉嶺!パトカーはタクシー代わりじゃないぞっ!永瀬さん、大丈夫ですか!?」

「ま、つ浦……さ……」

「喋らなくていいです、病院につくまで安静に……!」

颯爽と抱き上げられパトカーに向かい駆け出す吉嶺に対して、不思議と触れられる恐怖などなかった。
公園に居合わせた人達は何事かと視線を向けているがそれすらも気にする余裕もなく、藍里はそのまま病院へと運ばれた。