『……永瀬、命令だ。今すぐ来い』

「っ……しかし先輩……!」

『いいか、身内にどんなことが起ころうと事件が起これば駆けつけなければならない。今お前が向かうべきは病院じゃなく、一般市民を盾に引きこもる悪人だっ!!』

室山の声が藍里のみならず、吉嶺と汐見にまで届く。
誰もが優先すべき問題が何かが分かっているのに動けない。
そんな中、ようやく痛みの波が引いた藍里はゆっくりと身を起こすと、肩で息をしながら口を開いた。

「……行っ、て……」

「っ……藍里……」

「私は大丈夫……だから……お願い、行って……」

支えられていた体を離し、訴えるように何度も、行って。と言うが苦しそうな藍里を前に智大は動けないでいた。

「……室山先輩!横から失礼します、汐見ですっ!俺が先に駆けつけますから、先輩が遅れるのを許可していただけないでしょうか!?」

『馬鹿かっ!!お前も含めて永瀬も早く来いっ!!俺達はお前達が揃ってのチームだろうがっ!!』

汐見の言葉は一刀両断され、悔しそうに唇を噛み締めている。
そうしているうちに再び痛みがやって来て、藍里が呻きながらその場に蹲りそうになった時、体を支えようと手を伸ばしてきた智大の手を咄嗟に払い除けた。

「藍里……!」

「早く……早く行って……!私みたいに……あんな、怖くて、絶望的な思いをする人を……これ以上増やさないでっ!!
お願いだから……一刻も早く助けてあげてっ!!」

藍里の悲痛な声に三人は強く手を握り締めている。
大きく何度も深呼吸して痛みを逃し、けれども瞳を潤ませながら藍里は顔を上げて笑みを浮かべた。