「はい、永瀬です」

電話に出た智大の低く真剣な表情に慌てていた吉嶺と汐見の動きが止まり、静かに智大に視線を向けていた。
藍里も痛みに震え、僅かに声を漏らしながら智大を見上げると、智大がグッと藍里の肩を掴み眉を寄せた。

「……立て籠り事件、人質あり、武器として銃や刃物を所有、ですね」

その言葉を聞いた瞬間、吉嶺と汐見の雰囲気がガラッと変わった。
今までの言い合いをしつつも和やかな雰囲気は全くなく、ピリッとしたそれは正しく警察のもの。

そして聞こえた事件の内容は藍里が以前連れ去られた時と酷似していて、心臓が嫌な音を立てる。

恐らく室山であろう声が、今すぐ応援に来い。と指示したのが聞こえたと同時に耐えきれない痛みに襲われ、藍里は懸命に押し殺していた声を出してしまった。

「いっ……ああ……っ……!!」

「っ!!」

「藍里さんっ!!」

藍里の苦痛の声に吉嶺が慌てて声をかける。
その声が聞こえたのだろう、室山が電話の向こうで息を飲んだのが分かった。

『おい……永瀬、まさか……』

「今外出先でして……妻の陣痛が始まったかもしれません……」

『マジか……』

戸惑った様子の室山と智大、汐見もどうしたらいいのかと焦っている様子だ。
痛みの波はまだ引かず、藍里は呻きながら懸命にいきむのを堪えることしか出来ない。

そんな中、室山の声がスマホ越しに聞こえてきた。